蜂蜜(はちみつ)を使用した口腔ケアによる舌苔の除去
新潟県中条病院の看護師さんが取り組んだ、高齢患者の舌のコケ(舌苔:ぜったい)を取り除く為の実験結果です。
蜂蜜(はちみつ)の舌苔除去効果・殺菌効果・口臭予防
蜂蜜(はちみつ)に含まれるプロテアーゼのたんぱく分解作用が舌のコケをはがれやすくし、グルコン酸の殺菌作用が舌苔を形成しているバイオフィルム(細菌の集まり)を、退治してくれると考えられる。
実験にいたった経緯
当病棟A チームは、入院患者22名中、約半数が寝たきり度ランクC-2の患者である。
その中でも、自ら口腔ケアができず、連日、看護者が薬液2倍希釈オキシドールを使用し口腔ケアを行っている患者が多い。
しかし、患者のなかには認知症があるために、上手く開口ができず、口腔ケアが十分に行えないため、舌苔の付着が見られている患者が多い。
試行錯誤のうちに、認知症があり開口できない患者への口腔ケアで、蜂蜜(はちみつ)を使用することで、開口を促せたという先行文献を見つけることができた。
薬液を使用しなくても、はちみつを使用した口腔ケアで舌苔の除去・減少が図れるのではないかと考え、検証した。
はちみつを使用した口腔ケアによる舌苔の除去
蜂蜜を使用した舌コケ除去の実験
実験の目的:
はちみつを使用した口腔ケアにより、舌苔の除去・減少を図ることが出来るか?を確かめる。
実験方法:
対象者4名の舌苔に対し、蜂蜜(はちみつ)の塗布を行い、舌の状態の変化を見る。
実験結果:
はちみつの塗布を8回実施したところ、対象者4名ともに、舌苔の除去・減少が見られた。
結論:
- 蜂蜜は、舌苔の除去と減少に対し、効果がある。
- 蜂蜜によって、口腔内の湿潤を得ることが出来る。
- 蜂蜜を使用した口腔ケアは、認知症患者の味覚を刺激し、自然な開口を促し、無理のない口腔ケアが可能になる。
実験方法の詳細
寝たきりの認知症患者4名での実験
対象者=寝たきりで自ら口腔ケアできず、舌苔のある認知症の患者4名。
A :80歳代女性、脳梗塞、常時閉口している。気管切開、人工呼吸器装着中。胃瘻より経管栄養管理。
B :80歳代男性、脳梗塞、開口発語可能。IVH にて栄養管理。
C :80歳代男性、脳梗塞、開口発語可能。嚥下困難食を介助にて経口摂取している。
D :80歳代男性、脳梗塞、開口可能。IVH にて栄養管理。
実験方法の詳細
連日の2倍希釈オキシドールを使用した口腔ケアと併用し、舌苔の除去を目的としたはちみつの塗布を行う。
連日の2倍希釈オキシドールを使用した口腔ケアと併用し、舌苔の除去を目的としたはちみつの塗布を行う。
1回/週、原液のはちみつ約5g を綿棒に含ませ、舌に塗布する。
はちみつ塗布前後の舌の状態を評価基準に沿って評価する。
はちみつ塗布前後の舌の状態を評価基準に沿って評価する。
評価基準
評価0=舌苔なし
評価0=舌苔なし
評価1=舌の半分に舌苔あり
評価2=舌の全体に舌苔あり
評価3=舌全体に舌苔が蓄積
実験結果の詳細
初回と最終の評価を比較すると4氏に共通して舌苔の改善が見られている。
A 氏は、常に閉口しており、口腔内は湿潤していたが、舌の中央部には舌苔の付着が見られていた。ケア7回目までは、塗布前の評価2から塗布後評価1と舌苔の減少は図れたが、除去までには至らなかった。8回目のケアでは、塗布前評価2から評価0となり、舌苔の除去ができた。B 氏は開口状態であることが多く、舌苔付着、口腔内の乾燥だけでなく痰のこびりつき、付着物も見られた。毎回のケアで口腔内の汚れが除去でき、湿潤も図れた。ケア2回目は、塗布前の評価3であったが、ケアの回数を重ねるごとに評価は良くなっていった。また、「甘いもの大好き」との言葉も聞かれ、はちみつを好み口腔ケア時には開口を促せた。
口腔粘膜を傷つけることなく痰のこびりつきや粘膜の付着物の除去もできた。C 氏は開口状態であることが多いが経口摂取しているケースであり、口腔内の強度の乾燥はなかった。毎回のケアで舌苔の除去が図れた。ケア2回目までは、はちみつ塗布前の評価2であったが、5回目からは塗布前評価1となった。舌の乾燥が見られたが、はちみつ塗布により湿潤が図れた。甘いものを好む方で、はちみつ塗布時には「もっとくれ」と口を開け催促する姿が見られた。
D 氏は、途中転棟されたため、ケアは5回実施した。常時開口状態で、口腔内の乾燥、付着物、口臭のある方だった。はちみつ塗布前の評価は2であったが、塗布により評価0となり、舌苔の除去が図れ湿潤、口臭の軽減もできた。オキシドールによる口腔ケア時に比べると開口は良好であった。
考察
今回の研究対象者4名のうち3名は常時開口状態であるため、唾液の分泌が減少し、口腔内の自浄作用が減弱しており、口腔内の乾燥、汚染、舌苔の汚れが著しい状態であった。
また、認知症のため、口腔ケアが認知できず、ケアの際閉口してしまい口腔内清掃が十分に行えていなかった。
口腔内環境を整えるためには、粘膜、舌、歯のケアが必要であると考える。
口腔内は
「粘膜面は舌背に比べると、細菌を含む汚れの付着は少ない」と言われ「舌背は舌苔の付着により細菌の温床となりやすく嫌気性菌が増殖することで口臭の原因になるだけでなく、肺炎の原因にもなりうる」
「粘膜面は舌背に比べると、細菌を含む汚れの付着は少ない」と言われ「舌背は舌苔の付着により細菌の温床となりやすく嫌気性菌が増殖することで口臭の原因になるだけでなく、肺炎の原因にもなりうる」
と言われている。
対象者は残存歯が少ないため、舌苔に焦点を置き、その除去が必要と考え研究に取り組んだ。
対象者は残存歯が少ないため、舌苔に焦点を置き、その除去が必要と考え研究に取り組んだ。
舌苔は口腔内の細菌バランスを保つのに役立っているとも言われ、舌苔の清掃は週に1回が目安と言われている。
このため、連日の薬液を使用した口腔ケアと併用し、殺菌作用があると言われているはちみつを使用したケアを週1回行ってきた。
はちみつを使用した口腔ケアを実施したところ、対象者4名とも、はちみつ塗布後には舌苔の除去、減少が図れただけでなく、乾燥状態の口腔粘膜の湿潤も図れた。
また、認知症があり開口が認知できない対象は、はちみつの甘味が味覚を刺激したようで
薬液を使用した口腔ケア時よりも開口することができ、舌苔の除去と無理のない口腔ケアが可能となった。
花園養蜂場によると、「はちみつに含まれる有機酸と過酸化水素の強い殺菌力が、呼吸器細菌の増殖を抑える働きがある。」)と述べている。
エジプトのピラミッドから発掘されたという3000年以上も前のはちみつが全く変質しておらず、食べることができたという記録があることも、はちみつの殺菌力の凄さを証明している。
このような、はちみつの強い殺菌作用から、舌苔の除去、減少を図ることができたと考える。
また、はちみつを使った口腔ケアをすることで、乾燥していた口腔内が湿潤した。
口腔内に付着した粘調な痰や舌苔などは乾燥した状態で除去するのは困難である。
はちみつを使用することで乾燥したものが軟化し除去しやすくなった。
はちみつは保湿効果もあり、虫歯の原因菌であるミュータンス菌の繁殖を防ぐ効果があるため、塗布しても虫歯にはなりにくく口腔内の乾燥予防にも効果があると言える。
今回、舌苔の除去に取り組み、肉眼的に改善が見られた。
はちみつ塗布前後の細菌量の比較を行ったわけではないが、舌苔の除去、減少が図れたことや、口腔内の乾燥予防にも効果があること、認知症患者の開口を促すことができたことから、はちみつによる口腔ケアは有効であると言える。